トラナビ通信
トラナビ通信
はじめに
飲食店の開業を夢見ている方にとって、「何から始めればいいのか」「どのくらいの資金が必要なのか」「融資は受けられるのか」といった疑問は尽きないものです。
この記事では、実際に飲食店開業支援を年間50件以上手がける専門家の知見と、成功した飲食店経営者の実体験を基に、飲食店開業の全てを包括的に解説します。特に、金融機関から評価される創業計画書の書き方から、現実的な資金調達戦略、そして実際の開業事例まで、具体的なノウハウをお伝えします。
1. 飲食店開業の現実|必要資金と成功率を知る
1-1. 飲食店開業に必要な資金の実態
多くの方が想像している以上に、飲食店の開業には多額の資金が必要です。日本政策金融公庫のデータによると、飲食店開業の平均費用は以下の通りです
飲食店開業費用の内訳
ただし、このデータは過去のものであり、現在はさらに高騰している傾向にあります。実際の現場では、700万円~1000万円程度が一般的な開業資金として必要になっています。
1-2. 開業時の資金調達の現実
重要なのは、この900万円近い費用を全て自己資金で賄う必要はないということです。実際の資金調達内訳は以下の通りです:
資金調達の平均的な内訳
この数字から分かる通り、自己資金は全体の3分の1程度で、残りの約7割は借入によって調達するのが一般的なパターンです。
1-3. 運転資金の重要性
多くの開業者が軽視しがちなのが運転資金の確保です。日本政策金融公庫の調査では、「開業時に注意しておけばよかったと感じること」の第1位が「自己資金が不足していた」(26.8%)となっています。
運転資金は、月間の固定費の3~6ヶ月分を確保することが推奨されます。これは、開業初期の売上が安定しない期間を乗り切るための「命綱」となります。
2. 金融機関に評価される創業計画書の書き方
2-1. 創業計画書の重要性
創業融資の審査では、決算書や過去の実績がないため、創業計画書が極めて重要な判断材料となります。適当に書いて融資審査に落ちてしまうと、再チャレンジまで半年から1年程度の期間が必要になってしまいます。
2-2. 創業動機の書き方|3つの必須ポイント
❌NGな創業動機の例:
これらに共通するのは「行き当たりばったり感」です。金融機関が最も嫌がるのは、計画性がない創業者です。
✅評価される創業動機の3つのポイント:
②創業の準備状況・計画性
「何年前からこのような構想を持ち、このような準備をしてきた」という計画性をアピールすることで、真剣さが伝わります。
③熱意
融資審査は人が行うものです。熱意のある創業者とない創業者では、当然前者の方が評価されます。
創業動機の具体例:
「これまで5年間ラーメン屋に勤務している中で、自分のレシピでお客様にラーメンを提供したいという想いを強く持つようになりました。そのため、○○をコンセプトとしたラーメン屋を開きたいと考えておりました。
準備として、アンケート調査や競合分析を実施し、お客様のニーズを把握いたしました。また、自己資金の準備、施術技術の向上、見込み顧客リストの確保など、集客面・オペレーション面での準備も完了し、開業する運びとなりました。」
2-3. 経営者略歴の書き方|3つのポイント
多くの方が「○年○月 ○○会社入社、○年○月 ○○会社退社」程度しか書きませんが、これでは非常にもったいないです。
効果的な略歴の3つのポイント:
①担当業務・役職を具体的に記載
どのような業務を担当していたのか、どのような役職についていたのかを具体的に書きます。
②そこで得たスキル・人脈を明記
その経験でどのようなスキルを身につけたのか、どのような人脈を築いたのかを記載し、今回の創業にどう活かせるかを示します。
③具体的な実績を数字で表現
「年間○人の方に施術を提供」「新メニュー開発を年間○件担当」など、具体的な数字を使って実績を表現します。
2-4. 商品・サービス内容の書き方
3つの重要ポイント:
①とことん具体的に書く
抽象度の高い説明では、金融機関がイメージできません。具体的なメニュー内容と価格を明記しましょう。
②メニュー表を作成・添付
手書きでも構わないので、実際のメニュー表を作成して添付することで、真剣さが伝わります。
③革新的なサービスの場合はニーズの証明
世の中にない新しいサービスの場合は、市場調査やアンケート結果などでニーズがあることを証明する資料を用意しましょう。
2-5. セールスポイントの書き方
セールスポイントを書く際は、以下の2つの質問に答える形で構成します:
重要な2つの質問
①なぜお客さんは他のお店ではなく、あなたのお店を選ぶのか?
②なぜそれは他のお店ではできないのか?
この2つをセットで答えることで、強みとその根拠が明確になり、説得力が増します。
具体例:
> 「5年間ラーメン屋で修業を経験してきた高い技術力があります(強み)。なぜなら、前職では毎日平均3-4人のお客様を担当し、様々な肌質・年齢層の方への施術経験を積んできたからです(強みの根拠)。」
2-6. 販売ターゲット・販売戦略の書き方
3つの重要ポイント:
①お店のコンセプトとの一貫性
ターゲット設定と集客方法がコンセプトと一致している必要があります。
②顧客リストがあることを示す
見込み客リスト、SNSフォロワー、メルマガ読者など、具体的な顧客基盤があることを示しましょう。
③地に足のついた営業方法
ホームページやSNSだけに頼らず、直接営業や紹介営業など、確実性の高い集客方法を記載しましょう。
7. 競合・市場分析の書き方
3つのポイント:
①マクロよりミクロな情報
業界全体の動向よりも、実際の商圏内での具体的な競合情報を重視します。
②実際に足を運んだ調査結果
必ず現地に足を運び、自分の目で確認した情報を記載します。
③自社の優位性を明確化
調査結果を踏まえ、自社がどのような点で差別化できるかを明確に示します。
2-8. 収支計画の立て方
収支計画は以下の3つの要素で構成されます:
①売上計画
積算で予測を立てることが重要です。飲食店の場合:
売上 = 席数 × 回転率 × 営業日数 × 客単価
この計算式の各要素を、過去の経験や競合調査、顧客リストなどの根拠に基づいて設定します。
②売上原価の予測
日本政策金融公庫が発表している「小企業の経営指標」などの公的データを活用して、業界平均の原価率を参考にします。
③販管費の予測
人件費、家賃、水道光熱費、広告費などを1つ1つ洗い出し、月単位で予測します。
⚠️重要な注意点:
税引き後利益が借入返済額を上回っていることが絶対条件です。これを「返済財源」と呼び、融資審査の最重要ポイントとなります。
3. 資金調達戦略|借入は危険ではなく必要な投資
3-1. 借入に対する正しい認識
多くの方が「借金は危険」「できるだけ借りたくない」と考えますが、事業における借入は全く異なる性質のものです。
❌危険な借入:
✅安全で必要な借入
3-2. レバレッジの重要性
自己資金だけでは、始められる事業に限界があります。20-30代の貯蓄中央値は約300万円程度であり、この範囲内でできる事業は非常に限定的です。
借入を活用することで、少ない自己資金で大きな事業を始めることが可能になります。これは「レバレッジ」と呼ばれ、事業成長の基本原則です。
3-3. 運転資金は「命綱」
高所作業者がヘルメットや安全帯を着用するように、事業においては運転資金が「命綱」の役割を果たします。
運転資金ゼロのリスク:
十分な運転資金があるメリット:
3-4. 借入のコストパフォーマンス
事業資金の金利は非常に安く、月々の返済額は1万円程度になることも珍しくありません。この少額の金利で、半年から1年間の努力期間を購入できると考えれば、非常にコストパフォーマンスの高い投資といえます。
4. 実際の開業事例|野菜バル「ベジウェル」の成功ストーリー
4-1. コンセプト決定のきっかけ
ある経営者は、当初ハンバーガー店での開業を考えていましたが、先輩からの助言により「イタリアンバル」に方向転換しました。その後、友人と他店を視察した際に、トマトが苦手な友人が「焼きトマト」なら食べられることを発見し、「野菜嫌いな人でも美味しく食べられる野菜料理」というコンセプトに辿り着きました。
このエピソードは、人との出会いと体験が事業のコンセプトを決めるという重要な教訓を示しています。
4-2. 物件選定と初期投資
店舗概要
物件は「一目惚れ」で決定。周りに何もない立地でしたが、一軒家の雰囲気とリノベーションの可能性に魅力を感じての決断でした。
4-3. 内装・設備投資の工夫
内装工事期間は約3ヶ月。居抜き物件ではなく、テーブルや椅子も中古品を活用してコストを抑制しました。
特にこだわったポイント:
これらの工夫により、「また来たい」と思われる店舗づくりを実現しました。
4-4. 売上推移と成長パターン
実際の月商推移
その後の成長
この推移から分かるのは、開業初期は大きく変動し、安定するまでに時間がかかるということです。だからこそ、十分な運転資金の確保が重要になります。
4-5. 成功要因の分析
①柔軟な席配置
28席の店舗でしたが、最大100名の結婚式二次会を開催するなど、柔軟な席配置で売上を最大化しました。
②外席の活用
天気の良い日は外にもテーブルを設置し、席数を増やす工夫をしていました。
③サービスの質
トイレの清潔さやアメニティなど、細部へのこだわりがリピーター獲得に繋がりました。
④立地の活用
周りに何もない立地を逆手に取り、「隠れ家的な雰囲気」として演出しました。
5. 飲食店開業成功のための5つのポイント
5-1. 十分な資金計画
必要資金の目安:
資金調達の理想比率:
5-2. 綿密な創業計画書の作成
創業計画書は「返済財源を説明するための資料」として位置づけ、以下の点を明確にします:
5-3. 地に足のついた集客戦略
SNSやホームページだけに頼らず、以下のような確実性の高い集客方法を組み合わせます:
5-4. 運転資金の確保
売上が安定するまでの期間(通常6ヶ月~1年)を乗り切るため、月間固定費の6ヶ月分以上の運転資金を確保します。
5-5. 継続的な改善と学習
開業は「スタート」であり「ゴール」ではありません。お客様の反応を見ながら、メニュー、サービス、店舗運営を継続的に改善していく姿勢が重要です。
6. よくある失敗パターンと対策
6-1. 資金不足による早期閉店
❌失敗パターン:
設備資金にお金をかけすぎて運転資金が不足し、売上が軌道に乗る前に資金が底をつく。
✅対策:
6-2. 創業計画書の準備不足
❌失敗パターン:
創業計画書を適当に作成し、融資審査に落ちる。再申請まで6ヶ月~1年待たされる。
✅対策:
6-3. 楽観的すぎる売上予測
❌失敗パターン:
「開業すればすぐに客が来る」という楽観的な予測で計画を立て、実際の売上との乖離で資金繰りが悪化。
✅対策:
まとめ
飲食店の開業は決して簡単ではありませんが、適切な準備と戦略があれば成功の可能性を大きく高めることができます。
重要なポイントを改めて整理すると:
1. 現実的な資金計画: 700-1000万円の開業資金のうち、3-4割を自己資金、6-7割を借入で調達
2. 戦略的な創業計画書: 金融機関に評価される具体的で説得力のある内容
3. 十分な運転資金: 月間固定費の6ヶ月分以上を確保
4. 地に足のついた集客戦略: SNSだけに頼らない多角的なアプローチ
5. 継続的な改善: 開業後の柔軟な対応と学習姿勢
借入に対する不安を感じる方も多いと思いますが、事業における借入は「努力する時間を購入する投資」として捉えることが重要です。十分な準備期間を確保することで、試行錯誤しながら事業を軌道に乗せることができます。
飲食店経営は挑戦的な事業ですが、お客様に喜んでもらえる料理とサービスを提供する喜びは何物にも代えがたいものがあります。この記事が、あなたの飲食店開業の成功に少しでも役立てば幸いです。
夢の実現に向けて、しっかりとした準備を進めていきましょう。
※注意事項
この記事の内容は、実際の開業支援専門家と成功した飲食店経営者の経験に基づいていますが、具体的な融資条件や審査基準は金融機関や時期によって異なります。実際の開業時は、必ず専門家にご相談ください。