倒産ラッシュを乗り越える戦略と実践ノウハウ | 飲食店開業支援ならトラナビ

トラナビ通信

  • トラナビ通信2025.11.25

    はじめに:飲食店開業の夢と厳しい現実

    「いつか自分のお店を持ちたい」—飲食店開業は多くの人が抱く夢です。しかし、その道のりは想像以上に険しく、開業から1年以内に約40%、都心部では50%もの飲食店が閉店に追い込まれるという厳しい現実があります。

    近年、飲食業界は未曾有の困難に直面しています。インフレによる原材料費高騰、水道光熱費の急激な上昇(前年比で倍近くになるケースも)、そして深刻な人手不足という「三重苦」が多くの経営者を苦しめています。一方で、この逆境の中でも着実に成長し、複数店舗展開を実現している飲食店も存在します。

    成功する店舗と失敗する店舗の差は、単なる運や立地だけではありません。そこには「戦略的な経営手法」「徹底した数値管理」の有無が大きく関わっています。本記事では、飲食店開業を成功に導く具体的な戦略と実践的なノウハウを詳しく解説します。

    ■激変する飲食業界の構造的変化

    市場の二極化が加速する現実

    コロナ禍を経て、消費者の外食に対する価値観は根本的に変化しました。以前の「なんとなくの外食」は減少し、現在は明確な目的を持った外食が主流となっています。

    高付加価値・高単価路線: 特別感や非日常体験を提供し、顧客が「3回の外食を我慢してでも行きたい」と思える店舗。価格は高めでも、唯一無二の価値を提供することで支持を獲得します。

    超日常・低価格路線: 日常使いできる合理的な価格で、手軽に利用できる店舗。回転率と効率性を重視した運営が特徴です。

    この二極化の中間に位置する「理由のない総合居酒屋」のような業態は急速に淘汰されています。飲食店開業を考える際は、どちらの路線で勝負するかを明確にすることが不可欠です。

    ■FLコスト同時圧迫:業界史上初の危機

    現在の状況は「フードコスト(F)とレーバーコスト(L)が同時に圧迫される、飲食業界史上初めての事態」です。

    フードコスト上昇の要因:

    • 円安による輸入食材価格の高騰
    • 国際情勢による原油価格上昇
    • 物流費の継続的な値上がり

    レーバーコスト上昇の要因:

    • 他業界との人材獲得競争(製造業、物流業等の高時給化)
    • コロナ禍での業界不信による人材流出
    • 最低賃金の継続的な上昇

    この「FLコスト同時圧迫」に対応できない店舗は、売上が上がっても利益が残らない「売上貧乏」に陥っています。

    ■BtoCビジネスの構造的弱点

    飲食店の多くはBtoC(企業対消費者)ビジネスであり、これが生産性の低さにつながる構造的課題を抱えています。BtoBビジネスでは取引先との価格交渉が比較的容易ですが、BtoCでは顧客がその時の気分や状況で店舗を選ぶため、価格競争に陥りやすく、安定した収益確保が困難です。

    この弱点を克服するには、顧客の「ファン化」が不可欠となります。

    ■飲食店開業で失敗する5つの共通パターン

    1. 原価管理の完全な欠如

    メニューごとの正確な原価を把握していない経営者が非常に多く見られます。「美味しい料理だから売れるはず」という感覚的判断で価格設定を行い、結果として利益を確保できません。

    具体的な対策:

    • 全メニューの詳細な原価計算(食材費+調理時間×時給+光熱費按分)
    • 目標原価率30%の設定と月次チェック
    • 利益商品と集客商品の明確な区分
    • 季節変動への対応策

    2. 人件費の無駄遣い

    開店時間と実際の来客時間にギャップがあるにも関わらず、開店時刻からフルスタッフを配置している店舗が98%にも上ります。

    改善効果の計算:

    月間削減効果=時給×削減人数×削減時間×営業日数

    例:時給1,100円 × 3人 × 1時間 × 25日 = 月額82,500円の改善

    この削減した費用の半分を顧客サービス向上に再投資することで、原価1,500円相当のサービス料理を提供でき、リピーター獲得にも繋がります。

    3. 店舗商品の無断消費

    「1杯くらいいいだろう」という軽い気持ちで店舗のお酒やジュースを飲んでいる経営者が多く、これが管理の甘さと数値管理の疎かさに直結します。酒を飲みながら経営している人で成功した例は皆無に等しく、どんぶり勘定の経営に陥りがちです。

    4. 売上と給与の混同

    「今日の売上が10万円だったから3万円使おう」というように、店舗の売上を個人の給与と混同する経営者が多く存在します。これにより月間の正確な損益状況が把握できなくなり、気づかないうちに経営が悪化していきます。

    5. 収支管理の完全な欠如

    店舗の正確な収支状況を把握していない経営者は必ず閉店に追い込まれます。コロナショックで倒産した企業の多くは「資金ショート」が直接の原因でした。逆に、日頃から収支管理を徹底していた店舗は困難な状況下でも生き延びています。

    ■成功する飲食店開業の戦略的アプローチ

    適切な価格戦略の実行

    インフレ時代において、適切な価格改定は生存に不可欠です。成功している店舗では、原材料費が2%上昇すれば売価も2%上げるという明確なルールを設けています。

    価格改定の実務手順:

    原価率コントロール:

    • 目標原価率を30%に設定
    • 月次で実績をチェック
    • 32%や34%に上昇した場合、即座に価格調整

     

    改定方法の工夫:

    • 年2回の小幅改定(年1回の大幅改定より受け入れられやすい)
    • セット商品での体感価格調整
    • ハーフサイズメニューの導入

     

    顧客への説明戦略:

    • 品質維持のための価格改定である旨を丁寧に説明
    • 仕入れのこだわりや生産者の顔を見せる
    • SNSでの事前告知と理解促進

    ■顧客ファン化の具体的手法

    BtoCビジネスの弱点を克服するため、以下のファン化戦略を体系的に実行します。

    リアルコミュニケーション:

    • 常連客の名前と好みの詳細記録・活用
    • 季節の挨拶状や限定イベントの個別案内
    • 店主・料理長の人柄を前面に出した接客

     

    デジタル戦略:

    • SNSでの双方向コミュニケーション
    • 仕込み風景や新メニュー開発の舞台裏公開
    • LINE公式アカウントでの会員管理
    • 来店スタンプ制度や誕生日特典

    ファン化に成功した店舗では、価格改定を行っても顧客が納得して継続来店し、新規顧客の紹介も積極的に行ってくれるようになります。

    ■BtoBビジネスの並行展開

    BtoCの弱点を補完するため、BtoBビジネスを並行展開することで安定した収益基盤を構築します。

    具体的なBtoB展開例:

    • 法人向け弁当・仕出しサービス
    • 企業の福利厚生との提携(食事券・社員割引)
    • 会議・イベント向けケータリング
    • シグネチャー商品の小売・EC展開

    BtoBビジネスでは定期契約により売上予測が立てやすく、価格改定の交渉も比較的容易になります。

    ■徹底した数値管理システム

    感覚的な経営ではなく、データに基づいた客観的な意思決定が成功の基盤となります。

    重要管理指標(KPI):

    FLコスト率=フードコスト+レーバーコスト売上×100

    目標:55-65%以内(業態により調整)

    営業利益率=売上−原価−人件費−固定費売上×100

    目標:10%以上

    粗利率20%未満のビジネスは回避: 原価率80%を超えるビジネスモデルは、中小企業では持続困難なため避けるべきです。

    ■開業前準備の実務チェックリスト

    事業計画の精緻化

    売上予測の計算:

    月間売上=想定客数×客単価×回転率×営業日数

    この計算に基づき、FL比率、家賃比率(売上の10%以内が目安)、その他経費を差し引いた営業利益率をシミュレーションします。

    ■立地とオペレーションの最適化

    • ターゲット顧客の動線上に位置しているか
    • テイクアウト・デリバリー対応の導線設計
    • 席効率と回転率を阻害する要因の排除
    • 5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)によるオペレーション効率化

    ■メニューエンジニアリング

    人気度と利益率で全メニューを4象限分析し、「星メニュー(高人気・高利益)」を目立つ位置に配置、「死に筋メニュー(低人気・低利益)」は廃番または改良を実施します。

    ■人材確保と教育体制

    • ピーク時間に合わせた効率的なシフト設計
    • 動画マニュアルとチェックリストによる教育の標準化
    • 他業界との競争を意識した待遇設定

    ■変化の時代を勝ち抜くマインドセット

    現在の飲食業界は「30年に一度のゲームチェンジの時代」にあります。従来の経営手法の延長では生き残ることができず、積極的な変化への対応と革新が求められています。

    成功する経営者の特徴:

    • 失敗を恐れずに新しい取り組みにチャレンジする
    • トライアンドエラーを繰り返し、経験を蓄積する
    • 市場の変化を敏感に察知し、迅速に対応する
    • データに基づいた客観的な意思決定を行う

    失敗は短期的には苦痛を伴いますが、長期的には貴重な学習機会となり、将来の成功の基盤となります。重要なのは、変化を恐れずに行動し続けることです。

    ■開業成功のための最終チェックリスト

    基本設計:

    • ポジショニング(高付加価値か低価格か)の明確化
    • 月次原価率30%基準でのコントロール体制
    • FLコスト率55-65%以内の設計
    • 家賃比率売上の10%以内

    運営管理:

    • 全メニューのレシピ原価付与
    • 売上と個人財布の完全分離
    • 運転資金3-6ヶ月分の確保
    • 動画マニュアルと5Sでのオペ標準化

     

    マーケティング:

    • SNSとLINEでの会員化システム
    • BtoB(弁当・ケータリング等)での平日収益底上げ
    • デリバリー別価格と専用商品設定
    • プレオープン→レセプション→本オープンの三段階立上げ

    まとめ:持続可能な飲食店経営の実現

    飲食店開業の成功は、適切な準備と戦略的な経営により実現可能です。重要なポイントを再確認しましょう:

    成功の基本原則:

    1. 徹底した数値管理 – 感覚ではなくデータに基づく経営
    2. 適切な価格戦略 – コスト上昇に連動した価格改定
    3. 顧客のファン化 – 継続的なコミュニケーションによる関係構築
    4. 変化への適応 – 市場の変化に柔軟に対応する姿勢

     

    避けるべきリスク:

    • 原価率20%未満の低利益ビジネス
    • 曖昧な収支管理
    • 変化への抵抗
    • 中途半端なポジショニング

    飲食店経営は決して容易ではありませんが、正しい戦略と継続的な努力により、必ず成功を収めることができます。インフレの今こそ、値上げを恐れず、原価率を毎月管理し、ファンを増やし、BtoBで安定を作る。これらを実践することで、あなたの飲食店開業は長く愛される店へと成長するでしょう。

    行動の速さが開業1年目を乗り越える最大の武器となります。変化を恐れず、常に学び続ける姿勢で、夢の実現に向けて歩み続けてください。

    この記事を書いた人
    管理部