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金沢 栄一 野菜畑@表参道

―時代のニーズに合った野菜中心のレストランを経営なさっていらっしゃいますが、金沢さんが飲食業界に入られたきっかけを教えていただけますか?

 学校を卒業したときにホテルオークラに就職してホテルマンとしてスタートしたというのがきっかけといえばきっかけですね。環境というか、父が飲食業でしたから自然とこの業界に入ったという感じです。ただ、父は僕が小学生の時に亡くなり店は手放していたので父の店を手伝った、という経験はないんです。親戚の人には学費を出すから医者か歯医者になったらといわれていたので、そちらの入学試験に受かっていたらその道に進んでいたかもしれません。

―運命を感じますね。

 そうですね。父がいなかったので結構いろいろなところでアルバイトをしたんですね。その中に歯医者さんやホテルなどもあり、そんな経験の中でホテルマンを選んだわけですからね。

―ホテルマンといってもいろいろあるかと思いますが?

 入社したときに希望してレストラン部門のギャルソン(=ウェイター)をしました。ルームサービス、コーヒーショップから、トップレストランにまわりました。黒服になるといういいかたをするんですが、出世していくわけです。僕は2年半でキャプテンになりました。記録だったみたいですよ。引っ張ってくれる人がいて、めぐり合わせがよかったんだと思います。
  
―優秀なギャルソンだったのですね。では、ご自分のお店をもたれるまではホテルにずっといらしたのですか?

 いえ。ホテルには10年くらいいましたが、自分でやってみたい、引かれた路線じゃないところに行きたいと思って、東京銀行の子会社「綜合食品」に転職しました。銀行関係のレストランやバーのマネージメント、支店の出張所関係のパーティなどを約10年やりました。

―ご自分の店を出されるきっかけは?

 そろそろ自分の店を、と思っていたときホテルに勤めていたときのお客様で証券会社の役員の方が、一緒に店をやらないか、と声をかけてくださったんですよ。全面的にその方がスポンサーになってくれました。

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―ホテル時代の仕事振りを見込まれていたということですね。

 ありがたいことですね。フレンチはどうしてもお皿などにお金がかかるので個人ではなかなか店を出せないですよ。ホテルではフレンチだったので他のことは考えていませんでしたし。

―場所は初めから青山だったんですか? 

 初めは銀座を考えていました。銀座は好きな街ですし、ちょうどいい物件があったので値段の交渉をしていたんですけど、あっという間に別の会社が契約して。急きょ青山にしました。


―青山ではすぐにみつかったんですか?

 そうですね。すぐでしたね。今までの経験で物件を見るポイントを把握していましたし、すぐに店を始めたかったので、ここを見てすぐ決めました。ここでどんな店にするか、ということを考えました。初めはカフェのようなものもイメージしたんですが、青山といっても紀伊国屋の裏あたりだったので、イチゲンさんを相手にするよりはリピーターさんをと判断しました。

―集客などはどのようになさったんですか?

 フレンチはなかなかお客様に入ってもらえないんですよ。最初はホテル時代のお客様やレストラン時代のお客様に声をかけてきていただきました。これはギャルソンとして直接お客様と接していた強みでしたね。それでもギリギリ赤字でした。半年ぐらいたった頃から次々マスコミに取り上げてもらって一気に売り上げが3倍位になりましたね。

―マスコミが注目するお店だったということですね。ところで俳優の滝田栄さんとご縁があると伺いましたが?

 はい。銀座で「ドリームオン」という美容院をやっていて滝田さんのヘアメイクも担当している僕の友達と一緒に店にきてくれたのが最初です。そのときにうちの店を気に入ってくださったようでその後もときどきいらしていただいてます。今では滝田さん、すっかりベジタリアンになってしまいました。滝田さんがやっていた「料理バンザイ!」というテレビ番組の取材もきてくれましたがそれは偶然。でも、「料理バンザイ!」の放送直後は電話がひっきりなしにかかってきました。ちょうどクリスマスの頃だったのでよけいに反応があったみたいです。

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―メディアをみて来てくださったお客様たちにまた来ていただくために工夫された点は?

 値段がリーズナブルなことですよね。フレンチで味も雰囲気もいいのに価格はリーズナブル。だから男の子が女の子を誘いやすい。社用では使えないけどプライベートならお手ごろ。そういう設定にしたんです。それからご存じない方が多いかもしれませんが、本来フレンチのコースはデザートが食べ放題なんですよ。恥ずかしいからと、あまり手を出されない方もいらっしゃいますけど。フレンチは女性のお客様がほとんど。デザートをお好きな方が多いはずなのでグランデセールにしました。大きなお皿にデザートを盛り付けてお好きなだけ食べていただけるようにしたんです。それが受けました。

―でも、そこは今の「野菜畑」とは違う場所ですよね?

 はい、そうですね。最初は「ポワロー」というフレンチでした。お蔭様で評判になり手狭になったので近くのもっと広いところに移り、最初の店は「ポロネギ亭」というビアホールにしました。その後いくつかの店を展開している中で、今「野菜畑」が入っているビルのオーナーさんからテナントとして入ってほしい、と頼まれまして「野菜畑」の前身「パスティス」というフレンチの店を開きました。フレンチといっても南フランスの家庭料理というコンセプトです。

―その資金などは?

 最初の店が当たりましたので、それ以降の店はすべて銀行の融資を受けました。でも、バブルがはじけてしまったとき、ここ以外の店は全部閉めました。この店を残したのは、表通りに面していて場所がいいから。でもやり方は少しかえようと思いました。

―なぜ、野菜を中心にしよう、と思われたのですか?

フレンチそのものも時代の流れで健康を意識するようになっていて、たとえば粉を使ったバターたっぷりのソースではなく、オリーブオイルを使ったりというような傾向になっていました。肉から魚、魚から野菜、という流れが予見できたんですよね。自分が他の人と比べて有利ところは、家内の実家が農家で新鮮な野菜が比較的安く手に入ることと、新しい野菜の情報も入るということ。だからそれを生かして野菜を中心にしたメニューにしようと思いました。メニューに合わせた内装にして、リニューアルしたのが「野菜畑」です。まだ、今みたいにオーガニックレストランがもてはやされる前の話です。


―早くから野菜に注目してらしたんですね。

 そうですね。たまたま家内の実家が農家だったから。ただ、皆さん勘違いしていらっしゃるようですが、別にオーガニックにこだわっているわけではないしそれをうたっているわけでもないんです。新鮮な野菜をたくさん食べていただこうというのがコンセプトです。野菜を育てるのに有機肥料は使いますが、無農薬ではありません。市場に卸している普通の農家なので完全に無農薬では収穫量が減ってしまってやっていけないんです。でも、鮮度にはこだわっています。野菜はやはり収穫したてがおいしい。例えばトマトですが、市場に出す物はまだ青いうちに採って輸送の過程で赤くしたもの。初めから赤いと日持ちがしないから引き取ってもらえないんです。でも畑で赤くなったトマトの方が断然おいしい。自分たちの畑から直接店に運ぶからそれが出来るんです。1日おきに採れたての野菜を運んでいます。新鮮な野菜をたくさんに食べてもらいたいですしね。

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―畑はどちらにあるんですか?

 千葉県我孫子市古戸というところです。今でもお義父さん、お義母さんが作っているのですが、僕もときどき手伝っています。2年前には畑の近く、JR常磐線の湖北駅のそばに「ポワロー」というフレンチの店を出しました。

―シェフをはじめスタッフの人たちを集めるのはなかなか大変ではないかと思いますが?

 それは、いつも苦労してますね。でも、横のつながりでなんとか。知り合いに誰かいない?と声をかけたりして集めています。拘束時間が長いし、仕事が厳しいので本当にこの仕事が好きじゃないと続かないんですよね。

―そのスタッフの方の教育はどのように?

 教育というか、覚えておいてほしいことはたくさんあるんですよね。でもいっぺんに話してもとても覚えられない。だから、毎日食事休憩のときに15分くらい、ワインのことなど必要な知識をレクチャーしています。

―将来といいますか、3年後、5年後の夢とか、抱負を聞かせていただけますか?

 そうですね。人を育てたいですよね。この業界で長く働いてほしい。だからスタッフの生活が安定するようにしたいと思って、今いろいろ計画を練っています。まだ詳しくはお話できないのですが具体的に進めています。それから野菜作りにもう少し時間をかけたいですね。お義父さん、お義母さんももう年ですし。それと近所の農家の人たちを見ていていつも思うんですけど、市場よりは高く買って小売店よりは安く売る、というような生産者と消費者を結びつけるような流通のことも何とかしたいですね。

―いろいろなことを多角的に考えていらっしゃるんですね。ところで、座右の銘があれば教えてください。

 そうですね。座右の銘というか、とにかく「頑張る」ということですよね。苦境のときでも誠意をもってポジティブに頑張る。今できることを最大限頑張る。それしかないですよね。それで乗り越えてきましたし。

―これから店を持とうという人たちに何かアドバイスをお願いします。

 自分の夢は何なのか、何をやりたいのかをはっきりさせて目標に向って頑張るということですよね。店をやる場合は2パターン、何をやるか具体的に決めている場合と、場所にこだわる場合があり、それによってもやりかたはかわってきます。資金も自分で準備するのか、スポンサーをさがすのか、でかわります。いい物件があるからその場所に合わせて、ブラッスリがいいのか、ビストロがいいのかを考えます。初めから高級な本格的なフレンチを提供しようと思うなら港区や中央区でないとできないと思いますよ。それからフレンチをやるならできれば一度はフランスに行った方がいいですよね。食は文化だから、本場に触れるのは大事だし違ってくると思います。


【金沢オーナーのこだわりのもの】

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 野菜が新鮮というのは当たり前、安くておいしいも当たり前、大前提だからこだわりでもなんでもないんですよね。だからお客様の満足を得るために努力することがこだわりといえばこだわりかもしれませんね。形がないから写真には撮れないと思いますけど、くつろげて居心地がいい空間を提供したい、と思っています。俗にACSというのですが、Aは内装、Cは料理、Sはサービスという意味ですが、その3つすべてにおいて満足してリラックスしていただくというのがこだわりになるでしょうか。

【インタビューを終えて】
 少し汗ばむような陽気の中お伺いしたところ真っ先に出してくださったのが涼しげなミントの葉がのったパインビネガードリンク。爽やかな香りとさっぱりした口当たりが、ギャルソンのプロとして生きてきた金沢さんの自負と奥深さを感じさせてくれました。
金沢さんが目指す「ナンバーワンではなく、オンリーワンの店」はそういうさりげない心遣いから生まれるのでしょう。自ら夜中に車を動かして畑のある我孫子から表参道にある「野菜畑」まで野菜を届けているそうなので、いつ寝ているのかと思うほどですが、疲れも見せず、野菜のこと、フレンチのこと、ワインのこと、今後の農業のことなどなど、熱く語ってくださいました。ダイエットや健康が気になっている人でも安心して行けるすてきな店です。